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 シャープペンのキャップが口元に触る。
 癖といえば癖かもしれない。考え事をするときとか、ボーっとするときとか。
 たとえば勉強がはかどらなかったり、なんとなく春の陽気が気持ちいいときは、よく口元にシャープペンが乗っている。
 それを誰かに見られては、行儀が悪いよって注意され、笑いながら誤魔化す。
 行儀が悪いかどうかはわからないけど、わたしにとってそれはひとつの個性だったりする。
 シャープペンを口元に携え、遮光を受けて物思いに耽る。『教えられた個性』というのは異性にひどく人気らしく、同時に女性を魅了する行為のひとつ。
 生贄を探すための行為。
 魅入られた女は全て差し出され、男は無残に消えていく。わたしは彼らをおびき寄せる餌でしかない。
 最初は否定していた。そんなことできるわけがない。したら誰かが死んじゃうじゃないかと。
 しかし、年数は重ね、狩りに出されることも多くなり、その思いはもう過疎となった。
 いつ頃からだろうか。この癖を、誰かさんに注意をされ始めたのは。

 ――桜、それって癖か?――

 確か家計簿をつけていたとき。
 居間のテーブルで几帳面な字を綴っていた、高校に入って間もない頃。
 わたしは、わたしや藤村先生が誰かさんの家に来ることで消費されるお金を、電卓を打ちながら計算していた。
 片手でボタンを打ち鳴らし、片手で帳簿に数字を記入していく。単純作業はやがて詰まり、連動して働いていた手も動きを止める。
 計算しなおす。
 野菜の消費、ガス、水道代金、電気に衣類など。
 小気味よい音を再び鳴らし、そして再び算出。
 赤字。二つの二文字が、わたしの前に大きく立ちはだかった。
 お金に関して、当時のわたしはどうすることもできなかった。間桐の家で普段暮らしているわたしにとって、他人の家に上がることはあまり好ましくない。
 それが、聖杯戦争という名の殺し合いに準する相手の家ともあればなおさら。
 藤村先生は私の分も出してくれると言ってくれたが、もちろん丁寧に遠慮した。
 わたしは誰かに助けてもらうほど、きれいな人間ではない。もう昔からこの身体は穢れ、本来であれば自らこの命を捨て去りたいほどでもある。
 汚れたものに対して、藤村先生の扱いは優しいものだ。本当のわたしを知らないからという理由もあるだろうが、もしかしたら藤村先生であれば知った上でも変わらぬ態度で接してくれるかもしれない。
 でも、教えることなんて到底できなかった。
 正義感の強い藤村先生なら、真実を知れば間違いなく間桐の家に押しかけるだろう。同時に真実を話せば、間桐の家にも伝わるだろう。
 なんてことはない、家計簿より簡単な計算。
 話した瞬間、藤村大河という女性の一生はそこで終わる。

 できるはずもないだろう。
 昨日まで学校で、道端で、道場で、家で話し、請い、笑いあった人を底に叩き落すような真似。
 できるはずがないだろう。
 誰かさんもよく慕う人を、ヒトでないものにするのだから。
 考えながら、次第にボーっとしていく頭の中。
 赤字どうしようかな、自分もどうにかしてアルバイトを始めてみようか。しかしそれでは何かあったときに風当たりがこの家に。だけどこのままじゃ……。

「――桜?」
「えっ、あ、先輩?」

 耽った考えはその言葉で途切れた。
 戸の向こうに学校から帰ってきた人、高校生にしては少し背が小さいが、それでもどこか温かい雰囲気の。
 先輩。
 今はまだ先輩としか呼べないが、いつかもっと近い名前で呼びたいと思ってしまう人。
 もっとも、それはきっと一生叶わないだろう。
 表に出しているワタシと、裏にいるわたしはまったく違う。
 どちらが本当のわたしなんて、語ることも不必要。

「どうしたんですか? 今日はアルバイトの日だと思いましたが」
「いや、……お店のほうで今日はお客が少ないってことだからさ、こなくても大丈夫って、さっき道端で店長に会ったんだ」

 すぐに嘘だってわかった。
 嘘をつくとき、目が少しだけ揺らぐ。嘘をつきたくないという、自分と相手に対する小さな罪悪感が見て取れる。
 それに右手が腰に乗るのも、はぐらかそうと必死になる時の癖だ。
 先輩は、とても嘘が苦手だ。もともと嘘をつく人ではないのもあるだろうし、逆に嘘をついても身体に現れてしまう。
 先輩をよく知る人物であれば、すぐに看破してしまうような、それほどわかりやすい嘘。
 だって、嘘をつく理由は

「桜も風邪を引いていたことだしさ、棚から牡丹餅っていうか」

 苦笑いをしながら頭を掻く先輩は、「だからちょっと甘えたんだ」などと言って台所に入っていく。
 その後姿を見て、今度はわたしが苦笑してしまう。
 風邪なんていうのは嘘だ。この身体に埋め込まれている刻印蟲が活発になるとき、急激な吸引に身体がついていかず熱を発してしまう。それが原因なのだ。
 そのためよく病弱であると先輩に思われがちであるが、それはいい意味で勘違い。わたしを知られないためのカモフラージュでもある。

「そんな、心配するほどじゃないですよ」
「うちに来て、急に熱を出したんだ。責任は俺にあるんだから、桜は今日くらいゆっくりしてろ」
「でも……」
「でもじゃない。ちゃんと熱が引くように休んでないとダメだろ?」

 ほらこれだ。
 先輩はわたしのいうことを嘘だと思わない。絶対的な考えの中で、身内に属しているものの言葉は、信じて疑わない人。
 悪く言えば、騙されやすい。
 確かに普通の人より免疫の強い人であれば、半日ほどで回復するものだ。風邪を長く患う人は、長くて一週間ほどだろう。
 だが、ここまで頻繁に風邪を引いておいて、免疫力が強いというのは無理がある。
 免疫力がない人間が学校に通う。だがこうも風邪を引いて休みがちになると、学校としても引き入れ難い。そういった者はまず身体をキチンと治してから登校する。
 っと、わたしはすでに人ではなかったか。

「家計簿つけてるのか?」
「はい。家にいるだけでは退屈でしたから」

 目を下に落とし、悩んでいた数字に赤線を引く。
 参りました。これでは本当に先輩にはおんぶに抱っこ状態、迷惑ばかりかけている。
 アルバイトをするにもわたしの力では無理があるかもしれない。すぐに風邪で病欠してしまうようでは、相手もいい返事はくれないだろう。それでは意味がない。
 かといって迷惑になる程度ならこないほうがいい。
 いや、そもそも来ないほうがいいのだ。誰かを傷つけ、いつしか死に追いやるかもしれない自分の運命に、大切な人を巻き込むことはできない。
 美綴先輩も、藤村先生も、目の前にいる人も。全て大切な存在だ。
 だけど、わたしは今ここにいる。
 穢れた存在なのに、傍にいることすら許されがたいのに。

「――桜、それって癖か?」

 えっ? と。
 少しだけ間の抜けた声を出してしまった。

「そうやってペンを口につけることさ。桜って考え事をするときとか、時折ボーっとすることあるだろ? そういう時いつもペンを口に添えててさ」
「先輩、気づいていたんですか?」

 驚いた声を上げるわたしに、先輩は当たり前だろと自慢げに答えた。

「桜は俺にとって家族みたいなもんだからな。気づかないわけがないだろ」
「……」

 それに、と先輩は前置きし、

「そうしている桜ってすごくキレイなんだけど、どこか寂しそうでさ」

 息を呑む。
 普段隠していたわたしの一部を、先輩に見られたような気がして。
 それ以上に、自分が隠せていなかったことに傷ついて。
 鈍感だと思っていた先輩が、小さいだろうわたしの弱さを見つけたことに少し喜んで。
 だけどそれは配慮しすぎだ。先輩の心配は、関わってはいけないこと。深く知ってしまえば自分の首を絞めること。
 たとえ間違っても、口に出すことはできるはずもない。

「先輩……」

 少しだけ、嬉しさを出す。
 もしかしたらわたしは、先輩へ無意識にSOSを出していたのかもしれない。こんな自分を助けてくれる人、汚れて、穢れて、ヒトとしての機能を失っているわたしを、家族と言ってくれて。
 その優しさをわたしは利用していた。

「ありがとうございます。でもご心配なく。わたしって結構頑丈なんですよ?」
「頑丈って、週に二回も風邪で休む人のことをいうのか?」
「そ、それはほら。半日もすれば元に戻るような身体ですから」

 苦笑を漏らし、着替えてくるよと先輩は自室に足を向ける。
 どこか不自然とした動きに疑問を感じたが、今長話になるとわたしが先輩の優しさにおかしくなりそうだ。何もいわず、静かに先輩が去っていくのを見ていたほうがここはいいだろう。
 少し、自分のわがままさがいやになる。こんな風に相手の心を利用している自分に吐き気を覚え、同時に仕方がないんだと逃げる自分に怒り。
 だがそうすることで、先輩たちが普通に過ごせるのであれば、結果としてはいいのだと勝手に納得して。
 つらいかな。
 つらいです、先輩。
 わたしと先輩の距離って、こんなにも近いんですよ。
 手を伸ばせば届く距離にいるのに、わたしは先輩に嘘をついちゃっています。
 本当のわたしは、先輩が幻滅しちゃうほど最低の女なんです。
 淫乱なんです。乙女としての自分は、子供の頃に捨てちゃった身なんです。
 本当なら、傍にいるのもいけないんですよ。でもわがままを言って、聖杯戦争というのが始まるまではお世話にさせてもらっているんです。
 ごめんなさい、わたしって凄く身勝手で。でも先輩も悪いんですよ。いやならいやだって拒絶してくれれば、完全な道具にわたしはなれるのに。先輩はいつだって優しい笑顔でわたしを迎えてくれて。
 だから、つい甘えちゃうんです。嬉しいですけど、わたしにとっては生殺し以外の何物でもありません。
 だって先輩、わたしの他に見ている人がいるんですから。
 嫉妬もしちゃいます。他の女の子に目移りしているなんて、浮気です。
 あ、でもわたしがそんなことをいう権利なんて、元からなかったですね。
 ごめんなさい、勝手で。
 ごめんなさい。
 ごめん――

「そうだ、桜」
「はい? なんです――」

 そこから先は言葉にならなかった。
 声をかけられ振り向いた先、先輩の顔。
 鼻と鼻がつきそうなくらいに近づいた二人。
 時間が止まるような錯覚、止まるわたしの心音。
 言葉は出ない。言葉すら忘れてしまった瞬間。
 音も聞こえない。まるで部屋が異世界につながったかに思えるほどの突然。
 どうしたんですか?
 その一言がでて元に戻れるのに、喉まででている一言を出そうとしているのに、普通でいようとするのに。
 出てこない。わたしの口から出てくるのは、ただ息を殺す音だけ。
 伝わりあう温もり、おでことおでこがコツンと。
 今、音をたてた。
 心音が回復する。静かに、静かに。
 トン。と、ペンが畳に落ちる音。
 何が起こったの? そんな疑問が浮いては沈み、沈んではまた浮かぶ。
 先ほどまで何の変哲もなかった日常。
 これからも変わらぬ毎日を。そう思って日々を過ごしていたわたしの仮面。
 自慢の強固であった仮面は、今まさに脆くも崩れ去ろうとしている。
 手で突き飛ばせばいい。先輩のほうから近づいてきたんだ。それくらいは女の子として普通である。
 違う。わたしはもう女でもヒトでもない、汚れたナニかだ。
 現にわたしは、この展開に少なからず喜んでいるじゃないか。
 それこそ違うと心に向かって叫ぶ。
 先輩。
 わたしはダメなんです。
 先輩が簡単に触れていいような存在じゃないんです。
 先輩のキレイな手が、わたしの穢れた肌で腐っちゃいます。
 先輩の整った顔が、歪んでしまいます。
 わたしはもう乙女じゃないんです。人じゃないんです。先輩と同じ空気を吸うことすらおこがましいメスなんです。
 たくさんの蟲に囲まれて、たくさんの汚れきった液を身体中に這わせられ、今だってほら、先輩に触られて、わたし感じちゃっているんですよ? わたしって卑しい娘なんです。
 どんなに先輩が近くに来ても、わたしはもう元に戻れないんです。そういう身体なんです。だから来ないでください。
 触れないでください。見ないでください。蔑んでください。笑わないでください。話しかけないでください。
 なんで先輩はわたしに構うんですか。なんで先輩はわたしに寄ってきてくれるんですか。
 こんなにもわたしはあなたのことを突き放そうとしているのに、巻き込んではいけないと、ひたすら心を隠しているのに。
 先輩はなんでわたしの心を覗くんですか。
 お願いです。もう止めてください。こんなことをしていればいつかあなたは後悔してしまいます。そうなってしまえばわたしはもう壊れてしまいます。
 いやなんです。これ以上壊れたくないんです。壊れる先輩を見るのも、わたしが壊れていくのも、もういやなんです。
 来ないでください。触らないでください。
 お願いします。お願いします。
 こんなに、穢れた女になって、先輩を真正面から見る事だってできなくなって、それでも本当であればこの家に来たくなくて。
 でも。
 会いたくて――
 話したくて――
 笑いたくて――
 触れたくて――
 温かくて――
 優しくて――
 楽しくて――
 嬉しくて――
 健やかで――
 緩やかで――
 和やかで――
 こんな欲張りなわたしでも、あなたはいいんですか?
 こんな冷たい女でも、あなたは見てくれるんですか?
 こんな淫らな女でも、あなたは接してくれるんですか?
 こんなわたしでも、あなたを好きでいてもいいんですか?


 もし、幸せの願いが叶うなら神様、どうか――
 今しばらくは、このままでいさせてください――


 キスまでの距離。
 近くて遠い距離。
 歩み寄ってくれた先輩の匂い。
 好きな人の、温まる匂い。
 人の温もり、先輩のごわついた手。
 涙が出そうになる。冷たくて、心の底から溢れてしまう水。
 もう枯れたはずだと思っていた。もう出ることは永久にないだろうと思っていた。
 幾許かの時間で流した涙は数知れず、その全てが哀しみ。
 しかし、わたしにはまだ涙が残っているようだ。
 嬉し泣きという名の、好きな人にしか見せない涙。

「うん、熱はないみたいだな」
「……当然です。もう治りましたから」

 えっへんと、胸をそらしてわたしは変わりなく振舞った。
 先輩のとった行動が、わたしの胸中をぐちゃぐちゃにかき混ぜたことは言わない。言ったところで意味のないことだ。
 だけど、その温もりを受けたことは、きっといつまでも覚えている。
 初めて触れてくれたわたしのおでこ。
 いつもどこか他人行儀にしていた距離が、縮まった。

「それじゃ俺はいくけど、ちゃんと温かくして寝ておけよ」
「はい、先輩。ありがとうございます」

 決意が固まった。
 わたしの身体がどんなに穢れて、どこまで堕ちようとも。
 この心だけは、先輩と一緒にいたい。譲りたくない。
 胸の温かさを逃がさないように、わたしはしっかりと手を握り締めた。

 

「なるほど、士郎とはそのようなことがあったのですね」

 買い物の途中にある喫茶店。
 窓の外からは新都の通りが一望できる位置、人の流れが多く、右へ左へと流れる風景に、どこか視線を彷徨わせながらライダーは答えた。
 対するわたしは外を眺めているわけではない。店員が「紅茶のおかわりはいかがですか?」と来たので、ありがたく頂くと共にケーキを頼んでおいた。
 街の雑誌によるとこの喫茶店で出されるケーキはおいしいらしく、是非とも食べてみようと二人で話し合っていたものでもある。

「古い話ですよぉ。そこまで神妙に頷かれても困っちゃいます」
「いえいえ、大変貴重な思い出を聞かせていただきました」

 シニカルな微笑と共に、手元にあった紅茶を含むライダーはどこかキャリアウーマンを連想させる。
 もともとが完璧な女性だけに、どこまで不安を抱えていたかはわたしにはわからない。
 しかしかくいうライダーも、自身で悩みなどをよく打ち明けていたりする。
 背のこととか、髪の手入れとか。気にしなくてもいいようなこともあるが、それはそれで女性の悩み。

「サクラ。こういってはなんですが、あなたが士郎に対して積極的な面を持っているのは」
「はい、その頃からですね」

 あの人に自分を好きになって欲しいという気持ちは今でも変わらない。それは実姉が先輩を好きになったところで変わることでもなく、先輩がほかの女性に目を向けているときも変わりはない。
 もともとわたしはそこまで固執しているわけではなかった。傍に入れればいい。ただそんな漠然とした想いが、自分の胸の中にたまっていた。それが好きという気持ちに変わっただけである。
 自らの想いを打ち明けてまで、先輩を危険にするわけにはいかない。我慢するという気持ちがあったこそ、周りの関係が築けたことに繋がったと取れなくもないだろう。
 もっとも、先輩との交友関係については、恋のライバルができたということもあるけど。

「弱い弱いと口や想いで語っていても、サクラの行動は強さがにじみ出ています」
「そんなことないです。わたしは先輩や姉さんみたく強くないし……」
「それは違います」

 にっこりと、ライダーは優しく笑った。

「あなたは過去を振り返り、現代を生きて、未来を見ています。過去とは誰もが見て見ぬ振りをするもの、過去は己の弱さを写すものです。弱さを笑い、今ある壁に立ち向かい、未来を見据える者はそうそういません」
「仰々しいです。わたしにはもったいないくらい」
「サクラがいうところの全ては謙遜でしょう。あなたは本来、もっとも弱い人でした。しかし今は過去を受け入れながらも前に進もうとしている」

 意見を持ち出そうとして、自分でも少し否定的だなと皮肉する。
 昔は昔、今は今と割り切っていただけだが、ライダーからすればその行為こそが凄いといっているように感じられる。

「士郎やリンは確かに強い。サクラにない強みが二人にはありますが、同時にサクラにあって二人にないものもあります」
「わたしにあって、先輩たちにないもの?」
「サクラは心に打ち勝ったのです」

 心をズタズタにされたあの日。
 悲しみから救ってくれたのは、自分の意思か、それとも――。

「どうでしょう。ちょっとわかりませんね」
「……サクラ、あなたという人は」
「いいからいいから。それよりここのケーキって凄くおいしいみたいですよ、あとで持ち帰りできるかどうか聞いてみませんか」

 太陽の下。
 とても晴れた日。照りつける太陽も夏にはまだ遠く、しかし春からは遠のきつつある季節。
 そこにはもう暗く閉ざされた空間もなければ、腐臭の漂った場所でもない。
 気だるそうに走っていく人。汗をかきながらも電話をして困っている人、地面に座って笑っている人。
 冬木の町並みは、今日も平和を継続している。
 ケーキが運ばれてくる。
 ベタな選択ではあるが、ライダーも親しみやすいようにまずはチーズケーキを注文しておいた。
 ライダーはなんでしょうという風に眺めながらフォークをいじっているが、それではダメだと注意する。ケーキはおいしそうに口に頬張り、味を確かめながらほぐすように。
 見ててください、こう食べるんです。

 パクッと。

 頬が溶けるほどに美味しい味が、口の中に広がっていった。
 幸せの味である。


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