軽快な音と共に土煙の中を快走する。
風はない。ギラギラ照らす日の下、走る音と叫ぶ声だけが木霊する場所。
公園はグラウンドの中。四方を白線で囲まれたフィールドに立っているのは十六人の戦士。
彼らは共に戦いあい、削りあい、疲弊し、崩れ果てていく。次につながる命を繋ぐために、ただその命を守るために。
八人同士の戦いはすでに終幕を迎えつつある。
その片方を指揮するものが手を上げた。
「トリスタン、ボールを私に!」
ボロボロになった少年のパスが弧を描く。
走る。
だが同時に、敵の動きもピタリとついていた。走ろうとも誤魔化そうとも、まったく効果を示さない猛者。
最後に託された黄金の獅子に、試練の時が近づいてきた。
「『さっかあ』の試合、ですか?」
それは私が公園に来たときだった。
「そっ。この前このグラウンドで遊んでいたときに、ちょうど同じグループが横取りしてきてさ」
「グラウンドは俺たちが使うから、お前たち年少組みは家でゲームでもしてろって言われて。流石にそれは横暴だろ?」
いつものように休日を利用して、私は『さっかあ』をしに公園に来ていた。
メンバーはいつもと同じ、三枝兄弟やゲロ……もといトリスタンもいる。
私がついたとき、彼らは輪を組みながらなにかを相談しあい、かくも深刻そうな表情をして悩んでいるようだ。
春が過ぎて夏が来たこの冬木市は雨が少ない。乾燥地帯でもあるここは夏場、ほとんど雨が降らず、全国の中では比較的涼しい暑さが味わうことのできる土地。
そのため常日頃の天気は晴天、つまり外で遊ぶにはもってこいの日和である。
「ゲロスがさ、「ふざけんな。だったらサッカーで勝負して勝ったほうがこのグラウンドを使えば良いだろ」なんていっちゃったんだよ」
「っせぇな! しょうがねえだろ」
「ゲ……トリスタンは一緒にグラウンドを使うということはしたくないのですか?」
他のチームとの場所争いはいつの時代でもあるものだ。この時代でも、やはりそれは変わることは無いらしい。
聞いている限りでは確かに相手の接触の仕方には作法がなっていない。怒るのも無理はないことだとは気持ちの上ではわかるが、そこで怒れば相手のつぼだ。
現に、どうもその相手というのは彼らより背丈の大きい子だという。
「あいつらはよくこの辺を我が物顔で使うんだよ。そんなやつらと馴れ合うことなんてできるかよ」
「しかしいくら相手がいやなものといえども、我慢をするということが時には必要です。話し合いの場を設けることはできないのですか」
「無理無理。上の人間っていうのは下のことをてんで考えていないやつらだからさ」
それに、とトリスタンは前置きし、
「勝負といったからには、もう後には引けねえんだよ」
「……」
「……」
「トリスタン……よくぞ言いました。敵を前にして逃げることなどあってはならないこと。微弱ながら私も加勢させていただきましょう」
窮鼠猫をかむ。
たとえ弱い力であっても、強い力に向かい合えばどこかに必ず隙が見えてくる。自分たちは弱いと決め付けて動こうとしないのは、まさに愚考の極みなのだ。
胸に手を当てて忠誠を誓う。まだ『さっかあ』をはじめて間もないが、少なくともひとつの場所を守ることくらいはできるだろう。
「はっ? なんで姉ちゃんが来るんだよ。これは俺たちの問題であって――」
「やめとけゲロス。少なくともそこは突っかかることではない」
「なんでだよ」
メガネをかけた少年が、苛立ちを隠さぬトリスタンをなだめる様に諭し始めた。
「まず俺たちの問題だといったが、何でもかんでもゲロス一人で全部を決めるのはまずい。全部を一人で考えるなら最後まで一人で全部を対処すべきだろ?」
「む……」
「それにこのお姉さんはもう僕たちの友達だ。いわば同盟だ。なんの見返りもなく試合に加勢してくれるっていうのだから、ここは甘んじて受けるべきではないか」
随分と策士なことをいう少年だ。
しかし昔を振り返れば、なんの見返りもない同盟なんてあるはずもない。それこそ国王自らの関係があるか。同盟を組むことで利益がでるかどうかの差だろう。
そういった意味では少年の言うところは正しい。可愛げのない子だといわれても、キチンと戦況を見つめることのできる目は確かなものである。
「ちょっとまてよ。なんで俺たちとこの姉ちゃんが友達になってんだ」
「僕らは一緒にサッカーをし、共に笑い共に戦い、そして共に同じ水を飲んだ。さながら円卓の騎士みたくね」
「シキ、それこの間見た映画の影響受けたろ」
「別に喩えはどうだっていいだろ。問題は彼女が友達であるかどうか。僕は賛成だね、お姉さんのシュートは加減をすれば十分武器になる」
「誉れに値する言葉、謹んでお受けいたします。賢者よ。私が役に立てればよいのですが」
「大丈夫です。あなたの力であればここにいるみんながわかっていますから」
うむ、と周りの少年たちも同じように頷いた。
経験が少ない私にとって、これほど勇気を与えられるものはない。
「試合は明日ですし、それまでにセイバーさんはサッカーの勉強をしていてください」
「姉ちゃんはルールがまだよくわかってないからなあ。それだけが心配の種か」
「お任せください。不肖ながらこのセイバー、必ずや皆様の期待に添えましょう」
そういって、自宅に戻った後。
私はすぐにシロウへ詰め寄り、「『さっかあ』のルール」を教えて欲しいと頼んだ。
シロウは夕飯の支度をするため台所に立っていたが、私がいった言葉に何かを感じたのか、今はエプロンをたたみ、今で据わりを直しているところ。
「サッカーのルールを知りたい?」
「はい。できれば今日中に、しかも完璧にマスターしたいのです」
「んなこといわれてもなあ、サッカーを一日でマスターするにはルールだけで覚えられるものじゃないし……」
「シロウ!」
「は、はい!?」
いまいち緊張の伝わらないシロウに、どう説明すればいいかと瞬間思考し、すぐ簡潔に言ったほうがわかりやすいと判断。
「シロウ、これは戦争なのです」
「……戦争?」
「『さっかあ』というルールの中で、未来を占う戦争。規模の大小こそあれ、私は明日の勝利を彼らに誓ったのです」
「セイバーも参加するのか」
「もちろんです。義を見てせざるは勇無きなり、昔の偉い人が使った言葉です」
胸を張って答える。
だがどうしたことか、やはりシロウの顔には難しい顔が浮かび、なにやら苦悩している。
『さっかあ』というのはそれほど難しい競技なのだろうか。私の知る限りはそれほど難しいものではなかったのだが。
『さっかあ』の概要はおおよそ単純である。
ボールを敵から奪い、敵に奪われること無くネットへと入れること。その際に手は使っていけないということだ。
無論これ以上のルールなんてほとんど無い。紳士的なことを守っていれば、たいした失敗は無いと聞いていたのだが。
「わかった。セイバーのいいたいこと、伝えたいことは確かに」
「では――」
「だけど俺だとセイバーの期待には応えられない。専門の知識が無いんだ」
基礎的な部分は子供たちと遊ぶことでだいぶ覚えてきていた私にとって、その一言はかなりの致命傷でもあった。
手を使ったり、線を出たりするのはいけないことである。もちろんそれらは基礎的なことであるが、このルールを使った戦術的な部分を未だ知ることはできていない。
つまり、知識による戦いが無いに等しいのだ。
一般的なルールであれば問題はない。しかしシロウのいっている言葉はまさにその先のルールを言っていた。
「そんな……」
これには私自身愕然とする。
『さっかあ』とは団体で動くものだ。一人が強くてもその一人を抑えられては試合にならない。
ワンマンチームは、どこかで必ず弱い面を持っている。それはいかに私が強さを持っていても、止められてしまっては意味が無いからだ。
そのための知識を私はシロウに教えを請うはずだった。
なのに、結果は「できない」の一言。
「私は、彼らの力になってやれないのか」
「案ずるでない、セイバーよ」
突如、居間の電気が消える。
何が起こったのか、気配すら掴むことのできなかった事象に、私は自然と警戒を強めてしまう。なんとなく予想はしていたが、ただいつもの癖で警戒を強めてしまう。
「おおセイバーよ、諦めてしまうとは情けない」
振り向く。
閉まった戸の向かい、月の光に照らされたその者は、豪華な貴族を連想させる。
見えないところでは小太鼓の音が響き、芝居が始まるかの様。静観するかこちらから先制するか瞬時考え、しかしどちらでもいいかと改める。
そして戸は静かに開きだす。高貴な衣服を見せ、何かをいおうとした私を遮るかのように、シロウは声を荒げた。
「凛、諸葛凛先生じゃないですか!!」
「はっ? リンですか?」
「いかにも。私は世界唯一の天才魔術師、諸葛凛である」
ふはははははと高笑いをしながら、リンは手に持ったそれを私に差し出した。
「持っていくがいいセイバーよ。その本にこそサッカーの真髄。サッカーの心が描かれておる」
「リン、今はとやかく言う気はありませんが。あなたの本は確かに預からせていただきます」
ありがとうございますと、一礼。
「うむ。是非とも騎士たちを勝利に導くがいい」
同じように高笑いをしながら、戸が閉まっていく。蛍光灯に光が灯り、シロウを振り返れば綺麗な土下座をしていた。
本に目を落とす。
表紙には少年が楽しそうにボールを追いかけ、まるで飛び出てくるかのような絵柄が描かれている。
横文字で「キャプテン翼」と書いてあるが、これは何かの専門書なのだろうか。
ページを開く。
トラックに乗った少年が、ボールを肌身離さず足を使ってコントロールしている。
「なるほど、「ボールは友達」ですか……。確かに」
それからの勉強は、明け方まで続いた。
さて、次の日。
「お前らのチームは女もいるのかよ」
「こりゃ勝負するまでもねえな。今日は一日中遊んでられそうだ」
「へっ、いつまでも舐めていたら怪我するぜ」
「そうだ。この人は見た目はこーでもむちゃくちゃ巧いんだからな」
勝負をする前からすでに売り言葉と買い言葉の応酬で始まる。
試合の方式は八対八のミニゲーム。先にゴールを三点決めたほうの勝ちとして、細かなルールは除くことになった。
「オフサイドとかやってもわかりにくいだろ。審判の関係もあるし節度ある程度であればどちらもイーブンだ」
この試合に審判はない。プレイヤー同士の真摯な態度によって報告するか、初めからしないかに判断をゆだねることとなった。
それであれば小学生の彼らでも問題はないだろう。体格差のある私たちには、ひとつのハンデとなることだ。
私のポジションはFW、点をとる場所だ。この位置からボールが来ればどんどんシュートを狙っていけとシキは言う。
「ボールの大きさはお前たちに合わせて四号ボールだ。五号じゃへなちょこのキックしかできないからな」
一際大きな笑い声に何のことかとトリスタンに聞く。
「ボールのサイズってのがあって、小学生は中学生が使うボールより少し小さめのボールを使うんだよ」
「重さも違って、四号のほうが軽い。僕らからすればやりやすいけど、その分中学生たちにはカーブをかけたりすることができる」
「つまり相手の好意はあまりこちらにとって意味がないと?」
「極論から言えばそういうこと」
カーブといった大きな変化球に小学生がついていけるかと問われれば、十中八九無理だという答えが来るだろう。
シュートの威力だけで身を竦めてしまうほどのものだというのに、変化が加わるとすればもはや取れるものではない。
となればハンデというハンデではないのは明らか。
「待ちなさい!」
大きな声を出し、静止を促す。
「あんだよ。まだハンデが欲しいのか?」
「大ありです。いくら敵とはいえハンデにもならないハンデを与えること、相手にとって何よりの侮辱です。戦士として恥ずかしくないのですか」
「ボールを小さくしてやったんだ。それ以上のハンデがどこにある」
「体格差、シュートの威力、経験、どれをとってもあなたたちのほうが上であり、それをボールの差だけで補うことなど笑止。私としては本来ならハンデなど取り払ってもらいたいところです」
「ちょ、セイバーさんっ!」
ですが、と前置きして、
「せっかくです。もうひとつハンデをもらいましょう」
「なんだ? あれだけ大口叩いておきながらハンデが欲しいのかよ。随分と弱腰だなあおい」
「別に私はハンデ無しでもかまいません。ですがそれではあなたたちが負けたとき、言い訳のひとつも立たないでしょう?」
目線の先で、笑いを殺していた男たちの目が変わった。
「……随分言ってくれるじゃねえか。女が吠えるにしちゃ場が違うぜ」
「戦場に男も女もありません。互いに戦ったあとに残るのは結果のみ、そこに差別を含むとは器が知れますね」
「上等だ金髪のねーちゃんよ。条件はなんだ」
かかった。
「シュートの際、利き足とは違う足を使うというのでどうでしょう」
ざわつく声に私は一切表情を変えなかった。
利き足でないというのは一見して単純なように見える。逆の足で同じように蹴ればいいだけのこと、普通の者であればそう考えてもおかしくはないだろう。
だがこと経験者であればその難しさが容易に感じることができる。
普段蹴っている足。この反対を使うというのは脳の神経すら反対にしないといけなくなる。
それはつまり己の癖すらも裏切り、かつ的確にボールを蹴らないといけないという行為に他ならない。箸を持つ右手を、急に左手に持ち替えることができないのはそういうことだ。
「もちろん利き足でシュートした場合、ゴールは無効。こちらのゴールキックから始まるということでいいでしょうか?」
「姉ちゃんそれはっ」
「いいのですトリスタン。……そうですね、たとえヘディングには利き足の有無がないことを見逃すことくらいは、こちらが相手に与えるハンディです」
「言い切ったな外人かぶれの女。その言葉、後悔するなよ」
振り返り、中学生の男の子は去っていく。そのままチームメイトに一言二言声をかけ、何か作戦を立てているようだ。
もちろん先ほどの一言でゲームが荒れてしまっては意味がない。本気を出せば恐らく触れることさえさせないことはできるだろうが、そうしてしまえば場がしらけるというものだ。
さて、私たちも作戦を立てなければ。
「セイバーさん、流石に最後の挑発はどうかと思います」
シキは戻ってくる私に、きっぱりとそういった。
「およそ敵の精神を惑わすことに努めたのでしょうが、そこまですることはありません」
「そうですか。ですが勝負とは常に駆け引きが大事、試合が始まる前からすでに戦いは始まっているのです」
「戦ではないんですが……」
「どーでもいいけどいいのかよ。こっちから言えば三点取るのだって難しいんだぜ?」
「心配ありません。作戦は立ててありますから」
「とはいえ、あれ見ろよ」
三枝の弟――名を結城といったか――が相手のGKを指差した。
「老林だ」
「老林? まさか、あの――」
「誰ですかその者は」
「老林健太郎。今中学生で最も注目されているキーパー、ゴールをエリアの外から決められたことはなく、かつ中でも最高のセービングを見せる。SGGKのようなプレイヤーさ」
「なんですかその漫画のようなキャラは」
「しらねーよ。でも実際にいるから仕方ないだろ」
ジッと見ていると、ふと彼も私に目を向けた。
目深にかかる帽子の端々に見える闘志。どうやら周囲にいる者達とは一線を越えた位置にいる風格を出している。
つまり、目下敵対する最大の壁は、彼ということ。
「わかりました。ではキックオフは私に蹴らせてください」
「キックオフを? まさかセイバーさん!」
「ええ、かの者の誇り、一気に砕いてみせます」
ザッ――ザッ――
踏みしめる足の音。履きなれつつあるシューズのきつさ。
なびく風は涼しく、舞い上がる土煙は蒸し暑い。
陣形を崩す気配のない敵。我が軍勢。
久しい。
戦いこそ、私の人生。形こそ違えど、ノーサンバーランドの戦いを振り返ればよく似た状況にいる。
正義のために戦うのか、国のために戦うのか。
悪を討つのか、正義を守るのか。
九を救うのか、一を救うのか。
わからない。わからないが、正しき道はただ一つ。
「ボールを」
球は無感情に転がる。
前を見つめ、その先にあるネットの枠を捉えた。
敢然と構えを取るキーパー老林。
真っ向からの勝負に心震える私。
誠に、久しい。
これが勝負、これが戦い。
殺しではない純粋な決闘。力と力のぶつかり合いを、今か今かと血が騒ぐ。
トクン――――――――
距離をとる。
助走は四歩。その四歩に、今までの武者震いを全てこめる。
トクン――――――――
構える。
自然体に、絶対にはずさないという覚悟を胸に秘めて。
それはまるで弓を射るように。
トクン――――――――
疾る。
同時に呪を唱える。自分への暗示。
一歩。
「ボールは友達―――」
一歩。
「前に進み、雪崩のように飲み込む―――」
一歩。
「大空に舞う鷲、この右足に宿りし魂が見せてくれよう!」
一歩。―――――開放。
「くらいなさい、昨晩学んだ伝説の右足をおおおおおおお!!」
弓なりにしなる豪脚が噴きだしたシュートは、もはや人智を越えた超音速のそれだ。
地面すれすれに突き進むブーメラン状のボールはフィールド選手にいる誰の眼にもとまらず、直線上にいた人間、ひいてはその風王結界の影響で身体ごと吹き飛ぶ。
イーグルショット。それが私の放ったシュートの名前である。
「いっけぇーー!」
とまらない。発火しかねない速球はまさに制御不能の『エクスカリバー』。
赤銅に燃えるボールに誰もがようやく気づき始めた頃には、ゴールまで十メートルもない。
いや。
一人だけ反応できる男がいた。
「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
そう、老林健太郎である。
彼の動きは驚くものであった。私のシュートモーションを見るや否やそのコースを特定。
こちらの一歩を彼は二歩で。そしてコースに立ちふさがったのだ。
接触。
鈍い音と共に老林の身体が徐々に後退していく。
「いかに反応速度が速くても威力は消せません。この勝負、もらいました!」
「ぐぅ!! まだだ、まだ勝負はついてねえ!」
腕の中で暴れるボールを閉じ込め、強引に彼は横に飛ぶ。
と、同時に老林の身体が地面を離れ、ゴールへと吸い込まれる。
いや、吸い込まれるはずだった。
「なっ、なにぃ!」
ゴールに入る直前、老林の背中に、ゴールポストが立ち塞がったのである。
ゴリゴリと何かイケナイ音を出しながらも、老林は手を離そうとしない。それは確かにSGGKの名に相応しい戦いの最後であった。
「お、老林!!」
「大丈夫か老林! しっかりしろ!」
「ひ、ひでぇ。アバラが全部砕けてやがる……」
「ぐっ、ぐふぅ」
「お、老林。大丈夫か。待ってろすぐに救急車を」
「い、いいんだ。俺の、か……身体くらい、お……れが、よくわかっ……てんだ、よ」
「バカ! もういい、何もいうな老林! すぐに助けを呼んでくるから!」
端から見れば三文芝居のそれを誰がバカにできよう。
彼は私の勝負に真っ向から挑み、そして地に伏したのだ。たとえその結果が死であろうとも、誰もバカにすることは許されない。
「あ、あんた。セイバーとか……言ったな」
「はい、私の名はセイバーです」
本名は流石にいえないが。
「……世界、目指せよな」
「老林。あなたの願い、確かに聞き入れました。天に誓って、私は世界を制しましょう」
「ふ、ふふっ……それを聞いて安心したぜ」
ガクリと。
一人の人生が、ここに幕を閉じた。
「う、うぅん……」
朝。
スズメの鳴き声と共に起床。今日もどうやら晴れのようだ。
良い天気、そう思い布団から出て、身支度を整える。
朝食に寝巻きのままでいっては流石に恥ずかしい。リンから貰い受けた服を、いつものように袖を通す。
廊下に出れば味噌の匂い。こちらに来てからというもの、毎日の食事が楽しみで仕方がない。幸せ太りをしないだろうか心配になる。
今を覘けば、台所にはいつもの二人。
「おはようございます。シロウ、サクラ」
「おはようセイバー、今日は珍しく早いな」
「おはごうございますセイバーさん。……何かいい夢でも見られましたか?」
二人は手を休め、こちらを窺い見ていた。
本来サーヴァントは夢を見なのだが、確かに先ほどまで何か変な夢を見ていた気がする。
はて、一体どうしたということだろうか。
「夢か。そーいや今日、セイバーが子供たちとサッカーをする夢を見たな」
「『さっかあ』ですか?」
「ああ。それで凄腕のキーパーと勝負するの。これが夢だけにおかしくてさ」
「先輩、昨日漫画を読んでそのまま寝たんじゃないですか?」
ああ、そういえばそんな。
夢を見たような……。
「っと、すまないセイバー。皿を並べてくれないか?」
「はい、わかりました。この皿を並べればいいんですね」
皿を受け取り、テーブルに並べていく。
と、ポロリと自分の頬から、何かが皿に落ちた。
不思議に思い掬い上げてみると、それは小さな小さな砂の塊だった。