[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


「桜の木の下で告白すると両想いになれるっていうのはさ――」

 夕刻。
 カラスの鳴く声が寂しげに遠のいていく。影だけを残して去る姿は、おそらくカラスも親元に帰ることを連想させた。

「嘘じゃないと思うんだ。ほら、桜ってキレイだろ?」

 理由になってないよって、隣の女の子は小さく言った。
 もちろんボクだって理由になっているとは思わない。しかし話というのは得てしてくだらないところから始まり、そしてベタに終わるものだろう?
 とりあえず話を聞いてくれ。

「桜の花びらが舞い散る中で、男の子がやってくる。女の子はそれを見て、「えっ、なんであの人が?」っていう気持ちと、焦りで心臓がどきどきし始めるんだ」

 僕は続ける。

「鼓動と桜のキレイさが相乗して相手に不思議な好感を持ち上げて、これからするであろう告白を前に女の子は「もしかして私は……うそ、でも……」って気持ちにする。ありそうでしょ?」

 妄想だと彼女は言う。

「まあまあ、それで彼女への告白は成功を収めるってわけ。少なからず桜のまう下っていうのは、シチュエーション的にはとてもいい場所だったと評価できるんじゃないかな」

 違う? とボクが聞くと、彼女は笑った。
 可愛い人ねと。
 その言葉にボクは胸を熱くし、同時にとても気恥ずかしくなり、少し意地っ張りになってしまう。

「そっ、そんなこといったって別に嬉しくないんだからな! 男はカッコイイって言葉に憧れるんだから。何で可愛いんだよ」

 だって。
 だって、あなたは――。
 彼女は言う。
 純粋な気持ちで、好きを謳う人だから。と。
 弱々しい笑顔なのに、触れば壊れてしまいそうな表情なのに。
 なぜかボクは、彼女の笑顔に勝てる気がしない。

「むぅぅ、いいけどさ。君は無いの? 好きな場面っていうの」

 尋ねると彼女は少しだけ考え、ちょっと頬を染めて、小さく俯いて、どうしようかと悩んで、やったとどう反応すればいいかと困惑して、笑って、結局答えはすぐに出して。
 小さな手のひらを、ボクの手に重ねて。

「これが、わたしの好きな場面。かな」

 口から出る言葉もない。
 かける言葉も見つからない。
 ただ、心の中が満たされた。
 温かいなにかに、心は満たされた。
 右手の温もり。消えてしまいそうな優しい温もり。
 ギュッと、ボクは握り締める。


戻ります?