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「桜の木の下で告白すると両想いになれるっていうのはさ――」
夕刻。
カラスの鳴く声が寂しげに遠のいていく。影だけを残して去る姿は、おそらくカラスも親元に帰ることを連想させた。
「嘘じゃないと思うんだ。ほら、桜ってキレイだろ?」
理由になってないよって、隣の女の子は小さく言った。
もちろんボクだって理由になっているとは思わない。しかし話というのは得てしてくだらないところから始まり、そしてベタに終わるものだろう?
とりあえず話を聞いてくれ。
「桜の花びらが舞い散る中で、男の子がやってくる。女の子はそれを見て、「えっ、なんであの人が?」っていう気持ちと、焦りで心臓がどきどきし始めるんだ」
僕は続ける。
「鼓動と桜のキレイさが相乗して相手に不思議な好感を持ち上げて、これからするであろう告白を前に女の子は「もしかして私は……うそ、でも……」って気持ちにする。ありそうでしょ?」
妄想だと彼女は言う。
「まあまあ、それで彼女への告白は成功を収めるってわけ。少なからず桜のまう下っていうのは、シチュエーション的にはとてもいい場所だったと評価できるんじゃないかな」
違う? とボクが聞くと、彼女は笑った。
可愛い人ねと。
その言葉にボクは胸を熱くし、同時にとても気恥ずかしくなり、少し意地っ張りになってしまう。
「そっ、そんなこといったって別に嬉しくないんだからな! 男はカッコイイって言葉に憧れるんだから。何で可愛いんだよ」
だって。
だって、あなたは――。
彼女は言う。
純粋な気持ちで、好きを謳う人だから。と。
弱々しい笑顔なのに、触れば壊れてしまいそうな表情なのに。
なぜかボクは、彼女の笑顔に勝てる気がしない。
「むぅぅ、いいけどさ。君は無いの? 好きな場面っていうの」
尋ねると彼女は少しだけ考え、ちょっと頬を染めて、小さく俯いて、どうしようかと悩んで、やったとどう反応すればいいかと困惑して、笑って、結局答えはすぐに出して。
小さな手のひらを、ボクの手に重ねて。
「これが、わたしの好きな場面。かな」
口から出る言葉もない。
かける言葉も見つからない。
ただ、心の中が満たされた。
温かいなにかに、心は満たされた。
右手の温もり。消えてしまいそうな優しい温もり。
ギュッと、ボクは握り締める。