師走がやってきた。
山々に囲まれたこの幻想卿の奥深く、身の毛もよだつほどの寒さが私の肌を襲う。
うぅ、寒いぜ……。
悪態を口の中でつきながらも、その息を吐き出したくない。身体にある熱源をわざわざ逃がしてしまうのも癪だし、何よりその後に入ってくる冷たい空気が体の中から冷やしていく。
それだけは勘弁して欲しい。
「ふぃー、やっとついたか」
雪に包まれた家を見て、帰ってきたと安心した。冬にしか取れないキノコを採りに行くのは正直骨だが、しかしだからといってサボるわけにもいかない。新鮮なキノコが取れるということは、それだけ実験材料として理想の状態を保っている証明なのだ。
手袋に包まった指を扉にかざして、解呪の法を唱える。カチリと音がして、家が私を招き入れるように自然と扉が開いた。
うむ、苦しゅうないぜ。
雪を叩いてから家に入り暖炉に火を灯すと、家の中にあるランプに自然と火がついていく。自動発火装置が暖炉内部とランプにリンクしており、暖炉をつけると連動してランプがつく仕組みだ。
「えーっと、やかんに雪を入れてっと……」
寒い場所からやっと帰ってきたし、雪には暫く触りたくない。となれば浮遊魔法で掬わせるか。そこまで考えて今度はやかんに魔法をかける。
するとやかんがひとりでに動き出し、勝手に扉を開けて勝手に雪を掬い、勝手に家に入り込んできた。まったくこいつの主の顔を見てやりたいぜ。
あぁ、それって私か。
それはどうでもいいとして、やかんを暖炉の中に放り込む。けたたましくもガチャンと言う音を立てるが、暫く揺れてそのまま収まった。騒々しい、誰だ一体こんな騒がしい魔法を使っているのは。
あぁ、それも私か。
「あー、寒い日は眠くなるぜ」
独り言を無意識に呟いてしまって、思う。
なら寝てしまうか。
しかし今収穫してきたものは明日の実験にでも使いたいものだ。それを放置したまま、しかも暖房をつけたままでは寝るに寝られない。
かといって暖房を消したら今度は寒くて眠れない。それはそれで御免被りたいし何より……、
「ったく、いつものことだとわかっていても」
ポツポツと窓に映える雪を見て陰鬱になっても、これだけはどうしてか忘れないのはあの頭の固いやつのせいだ。
大体なんで私がこんな寒いなかキノコ獲りにいかにゃならんのだ。別に将来的に望めるものなんて全くないのに、わざわざこの寒い雪の中外にでてまで獲ってくる意味がわからない。
そうだぜ全く、なんで私はこんなことしてるんだろうな。
「っくしゅ!」
うーいかんいかん、本格的に風邪引きそうだぜ。
頃合になったやかんを取り出して湯をカップに注ぐ。えーっと確か以前購入しておいた珈琲がまたここに……おっ、あったあった。
さじ一杯分と砂糖を入れて、くるくる回す。するとほんのりと甘苦さと眼の覚めるような匂いが鼻をくすぐりふわふわとした気分にさせてくれた。
さてと、実験実験。とりあえずクリスマスまでには何とか完成させておきたいからな。
「あーめんどくさいぜ……あいつまた作ってきているんだろうしな」
貸し借りは無しにしないと。
熱いコーヒーを啜ってみる。それにしてもやっぱ寒い時期、珈琲は苦くてまずいぜ……。