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 見たことのない川に沿って私は歩いていた。

 周りにはきれいに咲く花がたくさんあって、それを摘んでみようと思うんだけど、どうしても手が動かずにただ前に進むだけしかできない。

 夢だろうか。

 そう思えるほどの一面の花々に心を奪われ。ただ歩いていた。

 父さんと母さんは……、いないか。

 不意に思ったことといえばそれくらい。自分が何故ここにいるかとかそういったことを考えないのは、考えることすらできないからだ。

 サク、サク。

 草を踏む音が気持ちいい。

 まどろんでしまいそうな気持ちに喝をいれ、この先にある何かを探していた。

 霧に隠れた世界、その中で一対何を見つければいいんだろうか。

「ほら、みなさい」

 ふと、後ろから聞いた事のある声が聞こえてきた。

「だれ……?」

「だれでもいいのよ。私は私、あなたはあなた。それより前を見なさい」

 言われたとおり前を向く。霧でよく見えないが、ぼんやりと人の形をした三つの影が映っている。

 あれは……おばあちゃん?

 それじゃ隣にいるのは……?

「お、とうさ……、ん?」

「時間は限られているから。早めに挨拶することね」

 そういって、声の主はどこかにいってしまった。

 歩く。次第に見えてくる影は二人の女性と一人の男性を模し、やがて手を伸ばせば触れるほどの距離まで近づいてきた。

「あ、えっと」

 どうしよう、何を話せばいいか全然わかんない。こういうときドラマとかだと凄いかっこいい台詞をいえるのに。

「その、私ね?」

「未来」

 お母さんが、私の記憶の中で数えるほどしか呼ばれた事のない名前を呼んでくれた。

「えっ……」

「ごめんね、未来。寂しい思いさせて」

 そういってくれた。

 たったそれだけで、私の心は温かくなった。

「………………………………うんっ!」

 

 §§§

「…………でっ?」

 数ヵ月後、事件当日にいなかった咲夜を問い詰めるとそんなことをいった。

 こっちは森が焼き払われちゃったからそれなりの後片付けとかたくさんあったのに、咲夜は一人で最後の美味しいところを持っていったらしい。なんて女だと思い私と魔理沙、妖夢は詰め寄るが、涼しい顔をしてあさっての方向を向いていた。

「でっ? といわれましても。私はただ当然の事をしたまでですわ」

「当然ですか。当然なら是非ともこっちを手伝って欲しかったです」

「あれくらいで死ぬようならそれまでだということで。あ、もうすでに半分死んでいましたわね」

「妖夢、抜刀しなくていいから。落ち着け、な?」

「しかしっ!」

「しかしもかかしもないわよ。それよりなんで今更西行寺なわけ?」

「見てのお楽しみ、というわけじゃありませんけどね。幽々子様が会わせたい人がいるから来なさいと」

 肩を明らかに落としている妖夢の背中を叩いてやる。そうかそうか、苦労してるんだなあんたも。
「でもまさかレミリアが元々人間だなんてねぇ、生まれながらの吸血鬼かと思っていたけど」
「初めから吸血鬼であればもう少しキレイに血を吸ってくれるんでしょうけど……毎日洗濯が大変ですわ」

「血をキレイに吸わないのは昔からの名残ですか」
「さてな、興味のないことだぜ。レミリアはレミリア。私たちは私たち。それがどう変わるんだ?」
 それもそうだ。レミリアの出生がどうあれ、レミリアには変わりない。これからもずっとだ。
 しかし、
「咲夜、あんたもしやレミリアの昔を―――?」
「さて何のことでしょう。私は紅魔館の一メイドでしかありませんから」
「似たもの同士ってやつか? それならそれである意味咲夜は紅魔館のメイド長だな」
 ……確かに、似たもの同士かもしれない。
 人間界から追われてきた咲夜、人間から望まぬ吸血鬼に変わってしまったレミリア。惹きあった運命はある意味、宿命付けられたものなのだろう。
 事実は小説よりも奇なり。と私は思う。
「失礼ですわ。私は前々からメイド長です」
「はいはい、咲夜は昔から紅魔館で働いている良きメイド長よ。あの我侭レミリアに付き合っていけるんだから」
「あ、ちなみにこの会話お嬢様に聞こえていますよ。いわゆる地獄耳」
「えぇー……」
 門を開いて砂地に足を踏み入れる。そこにはいつもどおりに仰々しい家が目の前にはあり、廊下には、

「あ、この間はどうもー」

 とかいう一回会ったような気がする女が一人。

「あーーーー幽々子さん、ちょっとその煮物私の分ですよ! とらないでください」

「ふふっ、未来ちゃんはまだまだ隙があるわねぇ。妖夢と一緒に訓練したどうかしら?」

「そんなことありません、隙あり玉子焼き!」

「甘いわっ」

「甘さ控えめなわりに」

 うまいことを言う。じゃなくて!

「ちょっと、何であんたがここにいるのよ」

「いえ、ここに住まわせてくれるというのでお世話になろうと思いまして。あ、妖夢さんの手伝いを一応しているんで、無職というわけじゃないんですよ」

「いや確かに助かってますけどね……それとこれはちょっと別次元な気が」

「違うぜ」

「違いますわ」

 幽霊と幽霊がご飯の争奪戦を繰り広げている中、なんともいえない脱力感を味わう私たち四人。まぁ、いいんだけど。いいんだけどっ!

「あんた成仏すれば親に会えるんじゃないのか」

「会えますよ。会えますけどそれじゃつまらないんでこっちに残ることにしました。いやー幽霊って意外と楽しいものですね」

「知らんがな、私たちは人間だし」

 それより、

「ここに呼んだということは、報告以外に何かあるんでしょ?」

 そうそう、と幽々子が脇にあった酒を取り出して私たちにぐい飲みを渡して来た。

「新人さんが来たことだし、みんなで歓迎会でも開こうと思ってねぇ。どう?」

「そうね、片付けるのが妖夢なんだし、私は別にそれでもいいわよ」

「そうだな、たまにはこっちで宴会開くのも悪くない」

「それならお嬢様も呼んできませんと。ちょっと席を外しますわ」

「えぇ、私だけなんですか!」

「心配要りませんよー、私もいますから」

「未来さん、あなたは黙っていてください」

「それじゃパッと準備しましょうか。妖夢、がんばって。その魂魄はなんのためについているの?」

「宴会準備のためについているわけじゃありません!」

 私たちの、というか幽々子のところに住み着いた未来。

 人間として暮らしていくこの女の子は、果たして生きていけるかどうかはわからない。

「じゃ、私も手伝いますね。幽々子さん勝負はまた後で」

 けど、それも徒労かもしれない。なんせここは西行寺、幽霊の住む場所だ。

「ねぇ魔理沙」

「あー?」

「また騒がしいのが来ちゃったわね」

「そうだな、うるさいのは勘弁だが騒がしいのは歓迎だぜ」

 そうね、私もそう頷いた。

 未来の手には、料理の数々。

 これからもまた騒がしい日常が始まりそうだ。


戻ります?