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 空がどうしようもなく朱くて、それのさらに遠くにいる太陽は紅くて。
金網の中にいる僕らを外から見守ってくれるような気がして、僕はうれしくなった。

「なに笑ってるの?」

 隣で金網に寄りかかった女の子が僕に話しかけた。
いつもつっけんどんな態度でみんなから遠ざけられる女の子は、こんなときだけ妙に可愛くみえる。

「ん…空ってさ、すごいよなぁって」
「……はい? 気でもおかしくなったの?」

 あからさまに不気味なものを見るような目で彼女は見るけど、少しも僕はおかしくないと思う。

「だってさ、僕らが普段やれることはとてもちっぽけで、人の役に立ってるかどうかもわからないようなことだらけじゃない? それが凄いかどうかも判らなくて、いつも自分にこんなことでいいんだろうかって自問自答して」
「当たり前じゃない。小さなこと、なんでもないことの積み重ねで、私たちは将来凄いことをするようになるんだから。もっとも凄いことをできる人なんてそうそういないけど」
「だからさ。空っていうのは一つしかないのに、太陽の光をうけてで色を何色も変えるし、それに台風とかの異常気象も出すことだってできる。それって凄いことじゃない?」
「なにを――――」
「ははっ、そうだよね。当たり前のことだと思う。けど自然の中に人はいつの頃か当たり前という先入観があって、それを見つけるのは難しいと思うんだ」

 風が優しく、横薙ぎに吹いた。
 ロングの髪とショートの髪は、同時にダンスをするかのように揺れている。
 空は変わらず朱く、僕らの肌を照らしていた。

「やっぱ、おかしいかな。こんな風に思っているなんて。普通の人らしくないのかな」
「そんな事―――っ!」

 言おうとして言葉をつむいだ。なんて答えればいいか、言い方に困っているんだろう。
まだ、こういったことを言うのは早すぎたかな。
 だから簡単に笑っておいた。いつものことだから。

「気にしないで。いつものことだから僕の頭の中が思っていることを表現しちゃうだけだし」
「―――わたしは」
「それじゃ今日もおつかれということで駅前のヤックでも行こうか。あ、そうそう今ならお給料も入ったことだしお金のことなら心配しなくても――――」
「わたしは!」

 帰ろうとした僕の背中に、女の子の声が痛々しく突き刺さる。

「みんなが思っているような普通とか、どうすればみんなと一緒でいられるとか、それこそ普通じゃないと思う。あんたがいう思いも何もかも、周りと違っていても変だなんて思わない。だって…、だって…………」

 その後は声にならないのだろう。嗚咽を抑えるように喉を抑え俯き、表情を悟られないよう必死に堪えているのが目に浮かぶ。
 振り返ればほら、やっぱり女の子だった。一生懸命何かに耐えるようギュッと手を握り締めている。
 だから…

「あ―――」

 だから、優しく手を握ってあげた。
 辛さも痛さも、自分ひとりで抱え込まないようにと。
 
「彼氏彼女の関係なら、ここでひとつ抱擁するんだろうけど……」
「〜〜〜ッッッ!!」

 朱くなる頬がやっぱり可愛い。いつもはそっけなくても、意識してくれている分ひどくうれしかった。

「ほら、いこ」
「…………いい、いかない」
「なにいってんの。もう暗くなる時間なのに」
「いいったらいいの! もうなんでわたしがこんな……こんな……っ!」
「別に気にしなくてもいいじゃない。キスしたわけじゃないんだし」
「き…っ!? この節操無しがぁ!!」
「うわっ、ちょっとタンマタンマ俺何か変なこと言ったか!?」
「問答無用ーーーー!!」

 人と人との繋がりも、案外悪くないと思えた。



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