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「つまるところだな、親友なんてものは口で語るような存在じゃないんだよ」

 ここは通学路の帰り、時刻は夕方を回った頃だろうか。ボケーッとしているその横で並んで歩いている
幼馴染の女の子が俺に語りかけてきた。
 風の強いことでよく知られている大橋の上で僕ら二人は学校の帰りを共にしている。昔はよくそのことで周りから
からかわれたが、今となってはそれほど気にもしていない。
何故こんな話をしているかというと、昨日二人してみていたマンガに親友を名乗るキャラが突如登場して、主人公を
助けるというシーンが彼女、アキラにはどうやら不愉快だったらしい。

「親友なら何でもやっていいとかそういうんじゃなくてさ、もっとこう何も言わずに背中を預けられるような、
 そんなもんだと思うのよ。うーん、私自身もまだよくわかんないけど、きっとそういうもんだって」

 そのどこから来るのかわからない自信がかえって面白くて苦笑を晒してしまう。アキラは「あー、笑ったな!」とかいって
腕をブンブン振り回してくるが、あまりに可愛らしかったので本音とは裏腹に余り怖くなかった。

「や、うん。アキラのいうことはわからなくもないよ。でもどうすれば親友って存在がその人に伝わるんだろうね」

 それは…と、軽く口篭ってからアキラは目を川に向けた。突如「あっ!」と声を上げたかと思うと手提げ鞄を放り投げて
橋の手すりに足を掛けだす。
 いきなりの行動で声も出ない僕を尻目に彼女の視線は真下、なんだと思い僕自身も川を覘いてみる。その先にあったのはなんと――――

「こ、子供が溺れてる!」

 掛け声と共に川に飛び込んでいくアキラ。高さ10Mはあろうかという恐怖をのもともせずに、むしろこれこそ絶対の
自信を持って彼女は水しぶきを上げて着水した。

「あの馬鹿!」

 悪態をつきながらも直に状況を整理する。川に恐らく転落したのだろう子供が二人、そして助けに飛び込んでいったアキラ。
あいつの力で子供二人救出できるかどうか。結論は無理だ。女の子の力で水分を含んだ子供二人抱えて泳げるわけがない。
橋の上では親が泣き叫びながら子供達を助けてくださいと懇願している。夕方のせいか、人通りは割りと多く、橋の下に向けて無意味に声を掛ける
人までいる。
 ではどうすれば彼女を助けられる。身辺にあるものでどうにかなりそうなもの、それは……。

「ちょっとごめん、そのカバン借りるね」

 わき道で止まっていた小学生二人のランドセルを、強引にひったくる。多少乱暴に思えたが状況が状況なだけに構っていられない、後で謝るとしよう。
中に入っていた教材や筆箱全部を外に出して、きちんとホックを閉じる。それを確認して僕は橋の下を確認する。
徐々に思考がクリアになっていくのがわかる。橋の下で子供二人を抱えたアキラ、やはり重いせいか苦しそうにがんばっているが、川の流れから
あまり抜け出せていないのがわかる。その姿を見て僕は誰ともなく自分自身に言い聞かせた。

「今、行くよ」

 後は簡単だ。橋の手すりに足を掛け、下のタイミングを見計らってジャンプする。
 急速に落下する身体が恐怖に囚われて縮こってしまいそうになるが、その瞬間にはもう水面に潜っていた。
本当に簡単だったなんていうどこが場違いな思考を一気に振り払い、三人の居場所を確認する。
水で重くなっている身体をどうにか必死で泳いで、手に持っていたカバン二つを子供に掴ませる。

「ゴホッゴホッ!!」
「大丈夫かアキラ。ったく、無茶しやがって……」

 革のカバンは水の浸透がほとんどない。その上浮力が高いために子供一人位なら余裕で浮いていられるのだ。
二人の子供が沈まないのを見て僕はアキラの肩を引き寄せる。華奢な身体が密着してやっぱり女の子なんだということを認識しながらも、
子供二人とアキラを岸まで誘導した。

 岸では子供の親と思える人が駆け寄ってきていた。子供は親にしがみ付きながら泣きじゃくり、親はそんな二人を怒りながらも、
それでもしっかりと抱いていた。
 その様子を見てアキラもホッとしたようで、心持ち身体を預けてきた。

「お、おいおい……」
「ありがとう、親友」

 うっ…、と言葉に詰まってしまった。そこでそんな言葉を言われると何もいえないじゃないか。

「気にすんなよ、誰だってはやる気持ちはあるさ」
「そうじゃなくてさ」
「うん?」
「私にも、親友っていうのがいてくれたことにさ」

 はは、と笑えない笑いをしてアキラは僕を見上げてきた。その目がどこか潤んでいて淡いピンク色の唇が青少年的には
非常に危ない武器であってだからそのえーと……。

「し、知らない。僕は何のことか知らないぞ!」
「あ、逃げた」

 後ずさりながら早足で逃げ去る僕をアキラは走って飛びついてきた。どこか天使のような悪魔の笑みを浮かべながらも、彼女は
僕には勝てそうもない、一言を言って高らかに笑った。

「もう一生、私とあなたは親友なんだから!」



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