「ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」、応答願います」
学校にいる先生が良くこんなことを言っていた。いつか地球の外にいる人たちと、個人的なコンタクトを取れるときがくるといいねと。
僕らにとってそれは、未知の世界を知る方法としての憧れであり、外の世界を知らない子供たちが唯一挑戦し続けることのできる行動の一つだった。
小学生の頃に、僕の学校から転校した女の子がいる。その子は親の事情で地球の外に行き、コロニー(宇宙ステーション)で生活することに決まっていた。
当然の反応で地球の外で生活をすることは凄く周りに羨ましがられ、女の子はいつも学校で話の中心になっていた。
それを遠目で見ていると、女の子がこっちを向いて凄く寂しそうな顔をしていたのを今でも良く覚えている。
正直なんでそんな寂しそうにしているのか僕にはわからなかった。だって宇宙にでれるんだし、キレイな地球を見てスッゲー所に行けるんだから、きっと楽しいと僕も思っていたんだ。
「ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」、コロニーの誰か聞こえましたら応答お願いします」
それから間もなくして、女の子が僕を呼び出した。
恥ずかしそうに顔を下に向け、何かを言いたげにしていて、初めての体験に僕自身なんて声をかければいいかわからないでいた。
あ、あのさ……。
う、うん……。
お互いそんな短いやり取りを、本当に不器用なやり取りをしながら、どう切り出せばいいか迷っていた。
次第に小学校の同級生が集まりだし、遠くから鳴りもしない口笛を吹きながら僕らを冷やかしていた。
気まずい空気と変なプレッシャーが僕と、多分女の子もだろう二人をイタズラに襲って、
こ、これ!
えっ、あ……。
辛い空気に耐えられなくなって、女の子はそのまま何かを僕に渡して、走り去ってしまった。
多分、泣いていたと思う。恥ずかしさからじゃなく、もっと違う何かのせいで泣いていたんじゃないだろうか。
そんな風に思えた。
「ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」です。誰か聞こえませんか?」
そうやって女の子が宇宙へ旅立ってから二回目の春、女の子からもらっていた手紙のことを思い出して、開いてみるとそこには良くわからない数字の羅列と、下手糞な絵柄が綴られていた。
親が言うにはそれはラジオの波長みたいなものだという。今ではもう古いが、無線などを使うことで遠くと交信できる手段らしい。
初めは興味本位で親にこれをやってみたいと言った。なかなか巧く波長も合わせられず、操作も難しいために当時小学校だった自分はすぐに飽きて止めてしまった。
「うーん……、多分この周波数で合ってると思うんだけどなぁ。ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム」
たかが小学生の思い出である。あの頃自分があの女の子に、どんな想いを持っていたかは今じゃさっぱりわからない。曖昧な話だ。
それからしばらくして十数年ほど、ある月の円周軌道上に乗っているコロニーの特集がテレビでやっていた。
今では地球の外にたくさんのコロニーがあるわけだが、中でもそれは当時一番初めに開発されたコロニーらしい。
あの女の子も、確かそのコロニーにいったはずだった。
「ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」、応答願います」
「ザ……ザザッ……ザー……」
丁度今の時期、もっとも地球とコロニーが近づいてくる時期だ。もしかしたら、という酷くくだらない理由で僕は今再び交信を再開している。
もっともこれが成功する確率なんて無いに等しい。けどテレビでやっていたコロニーの名前に、自分自身やらなくちゃ! という気持ちが湧き上がり、今では何十回と同じ呪文のような言葉を吐いている。
「ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」、コロニー「ファイト」応答願います」
「ガガ、ザー……、ッ……ら……ス…ザーザーッ……そち………か?……ザー……」
「も、もしもし!? ハローハロー、こちらネオ東京電撃チーム「ゆきかぜ」、コロニー「ファイト」の人ですか!?」
きた!
興奮覚めやらぬ声を上げて、マイクと手に持っていた紙を握り締める。その中に書いてあるのはこの周波数と女の子の好きなキャラの名前だ。
「ザーッ……、こ……ら、コロ……ガッ、………ワタ……ザザッです」
小さな羽根の付いた、下手糞でも可愛い絵柄。
「ハロー、ハロー、こ、ちら、コロニー「ファイト」アルファ、チーム「てんし」、きこえ、ます。どうぞ」
ようやく、僕らの止まっていた青春が動き出すのかもしれない。