紅く染まった虚空を見て、重なる痕から眼を逸らし。
幾度と願った場所には到達できず、幾星と想った人には届かない。
壁に手を伸ばせば虚無を知り、チカラを使えば心が痛み。
ノイズが奔る―――――。
産まれた時の温もりすら知らず、落とされた時には既にいた憂いと哀しみ。
ダレを眼にするでもなく、ナニを想うでもなく。ただ囲まれた牢獄の中、私は哀願した。
外にでたい。ただ、それだけを。
眼に見えて煩わしいクロとシロ―――――。
声は聞き届かない。無の世界に幽閉されたここは誰ぞいることはおかしい場所。
ただ一人、私以外を除いてはその存在すら許されない。
誰か―――。叫ぶ、届かない。
誰か―――。叫ぶ。届かない。
ダレか―――。叫び、願いを声に乗せる。
ダレか――――。だが、やはり届くことは無い。
これを続けて百年。そして私は気がついた。
みんな遊んでいるのだと。私が怖がるのを、眼の届かない場所できっと見ているのだと。
転がるエモノを手に取り、振り祓エ―――――。
それから声を上げることはしなくなる。
響いた声は闇に吸い込まれ、なにも訪れない世界が訪れる。
無意味、無声、無感情。無碍、無意識、無頓着。
いつしか、目の前には夢ができていた。
私ノ心を見ルナ、出て行ケ―――――。
初めはなんだっただろうか。
自分に似た壁、ただ其処にいるだけで何も喋らない人形。
こちらを見ているだけで話しかけもせず、ただ眼が死んでいるだけ。
勿論喜んだ。誰かに会えたのは初めてだし、いてくれるだけで何かが拭えた気がした。
話せなかったが、私はその女の子も遊んでいるのだと思った。にらめっこをしているんだと。
だから今度は話しかけないで、じっと見た。いつまでもみ続けた。
そうして、また百年が過ぎた。
ドウシテ、ドウシテダレも話シテクレナイノ―――――。
やがて遠い遠い世界の向こう。
忘れかけた記憶の螺旋に響く、和音。忘れようと深淵に埋没した懐郷を拾う、音色。
それは声だった。確かな残響が鼓膜を通して、脳で理解する。
かーごーめーかーごーめー。
かーごのなーかのとーりーはー。
いーつーいーつーでーやーるー。
よーあーけーのーばーんーにー。
つーるとかーめがすーべったー。
うしろのしょうめんだーれ。
二つの音が重なって、やわらかくも楽しい調を奏でる。
踊ってしまいたくなるほどに心が絞られる。ただの音だというのに、こんなにも私の欲が疼く。
もっと。
もっと聞いていたい。あの楽しい音色を、満足するほどに聞き続けていたい。
願い願い願いを続け、そして届いてくれと優媚に叫ぶ。
だが、それからもう間もなくして音色は途絶えた。
更に百年経った、ある夕闇感じる時のこと。
ヒトリハイヤナノニ―――――。
願いは壊れ、手を伸ばせば滅す。
やがて時は流れ、流す哀しみも愁の営みは飲み込んでいく。
もはや聞こえるのは自らの心音。定期とも不定期ともズれた流れに心委ね、ただ独り膝を組む。
どこから運ばれてくるかもわからないご飯というもの。
拒否権の無い知識の流動。
年を重ねるごとに退屈を増し、面白くないと世を謳う。
謳うことに罪は非ず。ただ退屈を紛らわすための法は自らを刻む時の性。
確かなこと。今私を縛るのはただその一つだけ。
私のいる世界は、どうしようもなく優しく、そしてどうしようもなく残酷。
時が加速する。
また百年の年月が過ぎた。
タスケテ、タスケテ、タスケテ―――――。
長きに渡る歳月の先。
自らのか、それともご飯と呼ばれたそれか。足元に広がる真赤な湖面。
指先から滴る液体が吸い込まれていく。湖が波紋を生み広げ、やがては収まっていく。
一つではない。繰り返しを繰り返し、波紋は幾つも広がり共振が生まれる。
壊れるが生まれる。真逆の法則を創り上げた私の手が、今はただ虚しい。
願うことも忘れ、欲することを削り、私の胸にあるのは一つの悪魔的希望。
対となる私のチカラが二つを生み出したのならば、できなくないはずだ。
ただ、一度の――でいい。
タスケテ、レミリアオネエサマ―――――。
そして、四百と九五年が終わり。
願いの叶う日がやってきた。
「―――――――――さぁ、何して遊ぶ?」
END