窓の外では雨がしとしと降っていた。
何の移り栄えもしない、白い檻とガラスの壁から覗けるところには紫陽花とそれを覆う草が広がっている。
滴る露を草は、紫陽花を傘のように守っている。そして紫陽花は白乳色をした空を陰鬱げに見上げている。
少女がいる。傘を持たない、青のジーンズに縞のキャミソールを着た少女。
目は虚ろげで、水に濡れた髪が顔に張り付いている。紫陽花とは対照的に顔は俯き、力なくそこに立ち尽くしていた。
「……あの馬鹿」
ポツリと呟いて、少年は立ち上がった。お気に入りのウォークマンを手に取るほど距離もないし、人目を気にするほどの仲でもない。
玄関前の傘を持ってアパートの門をくぐる。すぐそこには、先ほどと変わらない少女が、力なく佇んでいるだけだった。
ザッとサンダルの裏が擦れる音。その音にも反応することはない。
近寄る。
普通なら顔を上げて確認する動作も、今の少女には億劫なのか。少年には、少女が直面している感情がわからなかった。
「ほら………」
ぶっきらぼうに言った声と、少女の頭に出てきたのは一本の傘だ。
一メートルもない距離にやっと気がついたのか、少女は初めて顔を上げて、少年を見つめた。
心臓の鼓動も、吐息も聞こえるくらいの距離が、二人の心の距離も縮めた。
「―――祐一?」
震える唇が、やっとの思いで少年の名前を紡ぎだした。
おぅ、と答えて祐一は笑う。心配ないよと語りかけるように。
「風邪引くぜ。……由香」
「ホントに、祐一なの……?」
「あぁ、本当さ」
「ホントに、ホント……?」
「………ほら」
あっ、という声を漏らして由香の体が倒れていく。
祐一が由香の手を引っ張ったからだ。
そのままもつれるように、由香の顔が祐一の胸に埋まる。恋人のように。
「やだっ、祐一服が濡れちゃうよ」
「いいよ。時間が経てば水は乾くから」
「でもでも、はっ、恥ずかしいよ……」
「由香」
「……えっ?」
少女が見上げた先に、悲しく笑う少年の顔があった。
由香の頭を、祐一の手が包み込む。そのまま胸に押し付けて、祐一は呟いた。
「俺は、ここにいるから」
「ゆう…いち……?」
「由香が嬉しい時も、悲しいときも、淋しい時でも泣きたい時でも、俺はずっとお前の傍にいるから」
だから、
「独りで考えるなよ。俺が…、俺がずっとお前を支えてやる。俺がずっとお前を守ってやる」