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 ゾンビの歩く街、ここは幻想卿の奥の奥。
 人知れず生活を続ける者たちの成れの果てがそこにはあった。
 元あった概観は崩れ、今ではそれぞれの家が火を、怒号を上げている。
 叫ぶ人間はもうそこにはなく、ただ己の欲望を満たそうとする生ける屍が歩くのみ。
 その一角、教会内部に三人の生きた人間がいる。
 押し寄せる死者を三人は振り切り、教会の外に隔離する。いや、隔離されたのは彼女達であろう。
 呪怨。教会外から聞えるそれはまさに彼女達に捧げる一つの合唱のようだった。
 知れずに三人は背を合わせ、教会の中央付近へ歩を進めていく。
 カツ、カツと。
 リノリウムと靴底が擦れる音を残して三人は恐怖の色を隠せない。一人はハンドガン、一人はショットガン、
そしてもう一人はこの畏怖を記録するためのビデオテープを所持している。

「―――――ねぇ、一体何が起こってるの?」

 ビデオテープの少女は不安げに後ろの二人に声を掛ける。その声に応えたのは黒いとんがり帽子を
被り西洋の服をきたアンバランスな女性。

「さてな、恐らく楽しいことが起こってんじゃないか? そうだろ霊夢」

 霊夢と呼ばれた女性はなまじ呆れた顔をしながらも、

「そうね、あなたの頭の中みたいにきっと楽しいことでしょうね」
「ひどいぜ……」

 凡そ二人の表情には緊張というものが欠けているようだ。
 しかしそれをもってしてもあたりの雰囲気は変わることはなく、ただじっとその静けさを三人は
見守るだけに留まるしかない。そう、生きた三人だけは。

「―――――おっ!」

 突如声を上げたのは黒い魔女だ。右手に持ったハンドガンを構えながら隙なく辺りを見回し、
その異常さを誰よりも早く察知して後方の二人に危険信号、手でその方向を示す。
 見るのは同時、しかしその先は暗く、視認することが出来ない少女が、

「な、なにあれ…………」

 声をあげ、ビデオを暗闇に向ける。その気配を察したのか、闇に囚われた何かは確かにその場から
人の速度を上回る速さで逃走を図り、そしてその大きさゆえに風を切る音が室内にこだましてしまった。
 それは元人なのだろうか、手足は異常に伸びきり四足。壁から壁へと這い渡り、しかし見かけの重さは
ないのか重苦しい振動の音は響くことはない。
 頭には東洋の被り物で星型のバッジには「龍」の一文字。
 間違いない、中国だ。
 恐らく全身がばねのようなのだろう、収縮運動をすることで完璧に跳躍後の威力を相殺しているのだ。
そして二人は標準を定めに入る。ターゲットは唯一にしてその胴体、いかに動きが高速であっても自分達を
襲うのであればそれは一直線上、それに落ち着いてあわせれば十分対処できるはずだ。
 大丈夫、そう二人のハンターは心を鎮める。相手は中国、殺しても死なないような奴だ。迷わず、頭を
撃ち抜くんだ。そう、落ち着いて撃つんだ。
 目を離さない、壁を這う中国の跳躍を油断なく見つめながらハンターは思う。左へ跳躍、地面に着地
したと同時に今度は右へと跳ね上がる。そして天井に張り付いた中国を通り越し――――、

(―――――っ、おいおい……)

 そして知ってしまう。彼女達を狙うハンターが二匹いるということを、二人のハンターが視認してしまう。

「いや……」

 そして、それを崩したのは上方向を見つめなかったただ一人の少女。

「――――――三匹よ」

 突如ビデオを持った少女は目の前にある机を蹴り飛ばした。
 もし机が彼女の姿を隠さなかったら彼女の身体は二つになっていたに違いないだろう。突如視界を
奪われたそれは向かってくる机を避けるために上方向に跳躍、その勢いで三人の傍ら、巫女姿をした
一人の少女に対象を移し襲い掛かる。

「―――0.63秒遅いぜっ」

 しかしその牙は霊夢に届くことはない。突如轟音を響かせた銀の弾丸は中国の額を完全に撃ち抜き、
その威力を銃口から硝煙を上げることで証明して見せた。
 デザートイーグル―――明らかに少女の手に余る50口径の大型拳銃を、黒き魔女は事もなげに
撃って自己の存在を強調させる。
 弾丸の威力で後方に押し戻された中国は身体を一回転させ、だがその身体が死ぬことはなく足を起用に壁
に張り付かせ、高速で跳躍を開始する。
 
「ちっ、やっぱそう簡単には死んでくれそうにないな……」
「ちょっと魔理沙、耳元でそういうのを撃たないでくれる? もう少し静かに撃ってよ」

 悔しそうに、だが楽しく笑う魔理沙に霊夢は嘆きの声を上げる。
 その声が引き金となったか、三匹の中国は標的を彼女達に定めたようだ。

「来るわよ。フラン、私達から離れないで」
「……って、くっつきすぎもどうかと思うぜ?」

 直後、世界が震撼した。
 三匹の慟哭は窓を伝い壁を伝いそして彼女達の身体を震わせる。跳躍の衝撃は激しく、睨みつける
赤々の鬼面は怒号のように彼女達を縛って他ならない。
 八方に散る三匹全てに注意を払いながら常にフランをカバーする二人の魔女と巫女。相対的な彼女達は
しかし己の力を信じるように、一向に振り返る気配を見せない。

「魔理沙」

 静かに、巫女は魔女に語りかけた。

「後れを取らないでね」
「―――――――」

 その一言に魔女の持っていた空気は一変した。

「―――――お前もな」

 そうして、激動の時間が幕を開けた。
 一匹の中国が壁から地に着地、その勢いを殺さず地面を抉り巫女の前へと突進してくる。
 自然体の構えを崩さない霊夢の右腕が突如円の起動を描いたかと同時、放たれた弾丸の矛先は中国の足
めがけて疾走する。
 果たしてそれが見えていたのかどうかは定かではない、中国の前脚は急激に突進のベクトル方向を
転換、弾丸が到達する寸前で壁へと飛び退く。
 その勢いに乗じて一匹の中国は机にチャージ、弾かれた机はそのまま床を滑り彼女達の逃げ道を
塞ぎきることに成功、それに見とれてしまった三人に隙を見たか扇を描いてその牙を剥けんとする。
 
「―――0.22秒遅いぜっ」

 だがそれも杞憂、視線をはずした魔女の声は氷の刃。
 彼女の持つ凶器は既に硝煙が上がり全ての事象を終えた後になっている。それを疑問に思う前に
事象は炎の弾丸となって飛び掛る中国へ真横から襲い掛かる。

「―――――そうかっ、跳弾!」

 地を削り壁を穿ち、そしてこれから中国を狙っていくのはまさに磨り減らされた銀の刃、たとえ
不死であろうとこれを食らって無事で済むはずはない。
 しかしその弾丸さえもこの猛る物の前では無意味。強引とも言えるほどに身体を捻り、月輪形を
描くことで弾道から間一髪回避に成功。そのまま勢いを無くした状態で地面に着地、それを狙って霊夢は
銃口を定めるが一足早く回避に出られてしまう。
 そして十字架を掲げられた手前、一匹の猛者は彼女たち三人を見て威嚇する。
 それをみた霊夢はふと疑問に何かを感じ、そしてその疑問を銃によって応えさせた。

「――――――やっぱりね」

 この間僅か十秒にも満たない。
 流れる動作一つ一つに無駄があればもっと時間がかかり、尚且つ中国に襲われる確率が上がっていただろう。
だが彼女達の動きには全く無駄がなく、効率がいい。故にこの戦いにも対処が可能なのだ。

「なにがだ、お宝でも発見したか?」
「違うわよ、ほらみなさい」

 銃口の向こう側、穿たれて砕け散った瓦礫の横には先ほどと同じ様子でこちらを見ている中国がいる。

「あいつらが避けまくるからおかしいと思ったのよ。目も見えないような面してる割にその実
 致命傷となるような弾丸はきちんと避ける。それなのに今の攻撃は避ける意志すら見えなかった」
「……珍しいぜ、春っぽい頭を持つ霊夢が真剣に考えてるなんて」
「うっさいわね、つまりわたしが言いたいのは―――――」

 と、同時に二匹の中国が彼女達の前に姿を見せる。
 それを二人は合図と見て、

「死の匂いを嗅ぎ分けてるのよ―――――」

 爆音。
 二人の持つ凶器は獲物を求め口から火を放つ。だが光となった矢は彼らにとっては意味を成さない、
死の匂い、それはつまるところ「死の予感」に直結する。弾道が自身を穿つことによって完全なる生の
停止、それを止めるには中国の行動を制限するほかない。否、既に彼女達はそれを実践してやっている。
 だがそれ以上に中国の動きが早すぎるのだ。
 一発、また一発と銃を消費。その間にも何か対抗策を三人は考えるが、それでも浮かばない。

「ちっ、ふだんの弾幕と思って撃ちすぎたか……」

 カチンと金属音を打ち鳴らして魔理沙は舌打つ。その様子を背後にいる霊夢もタイミング悪しと
思いながらも、

「なんだかね、わたしもどうやら切れたみたい」
「おいおい、こりゃ絶体絶命ってやつか?」
「ねぇ魔理沙さん、こいつらスペカでやっちゃっていいの?」

 一瞬中国の表情が恐ろしさで歪んだような気がするが、気のせいだろう。

「フラン、今までわたし達がこれつかってがんばっていたのを見てなかったの?」
「えっ、それってただ新しいおもちゃをつかって遊んでいただけなんじゃ……」
「違うぜフラン、遊んでいたんじゃなくて付き合っていたんだ」
「……そうなのかー」
「微妙に納得するところじゃないと思うけど…まぁいいわ」

 這い寄る中国を前に三人は身を寄せる。一部楽しんでいるように見えるが、恐らくこの恐怖を前に
危機感が壊れてきているのだろう。
 ジリジリと距離が迫っていく、そしてその距離が対処不能となった次の瞬間―――――。

「―――――!!」

 突如として爆ぜたのは二つあった。
 一つは絶対距離にあった二匹の中国が僅かに後方へ飛び退いたこと。
 もう一つは誰もが予想しなかったことだ。
 教会の祭壇、ガラスには十字に貼り付けにされたイエスが描かれているそれが爆散する。
 文字通り割って入ってきたのは人間界で扱われている[バイク]と呼ばれるものだ。重低音を響かせて
十字架を畳み折り、意表を突かれ、真下にいた中国を完全に下敷きにしてしまう。
 それは三人の目にどう映ったか。絶望的状況で助けに入ってきたものは幻想卿のものではなく、完全に
人間界のもの、それも近代兵器のそれをいとも簡単に操っているのだから。

「――――どいてろヒューマン!」

 対峙するのは一匹の中国、真正面からバイクを吹かし上げて加速、そのままつっこんでいく。
 だが乗り手はそうは行かない。吹かしたと同時に身体を仰け反らせ一回転を決める。
 それはもうスロー再生の状態だろう、つっこんできたバイクにこれ見よがしに張り付く中国は、ウィリー
を始めた機械に身体を密着させ宙に浮いてしまう。
 事象を読んでいるかどうかは定かではない。空を歩いている形で金髪の少女が取り出したのはただの
ハンドガン。ただのハンドガンではない両足に着けられたホルスターから取り出された銃は二丁。銃口は
競り上がった中国に向けてだ。
 一つの音で二つの弾丸が中国へと向かっていく。だがそれを見ても化け物は一向に動く気配はない。それが
バイクの四角い部分に当たって、自分へは到達しないとわかっているからだ。
 文字通りその弾丸は中国へあたらないと少女も認識している。だがそれはフェイク、あたらないことを
前提として、バイクを狙ったからだ。
 接触、金属とこすれあったそれは火花を散らし箱の中へと進入。そして轟音をもたらし爆発した。

「うわぁ!」
「きゃーきゃー、カッコイイーー!!」

 空中で粉々になったそれを空虚に見つめながら少女は目を配らせる。斜め後ろ、椅子をはさんで
見えるのは一匹の中国、それに椅子を滑らせて向かわせることで牽制。
 当然中国は避けなければならない、上方に身体をゴムのように伸ばし戦線を離脱、一時この場から
体勢を立て直さなければやられると踏んだのだろう。
 だが少女はそれを許さない。秒間に放たれた弾丸の数は凡そ9発、跳躍と同時に放たれたそれを中国は
どうにか避けようとする。
 一発目、を首を仰け反らせることで逸らす。二発目を今度は腰を強引に逸らせて回避、三発四発と
関節を壊しながらも避ける。そしてその超人的な回避に終わりを告げた。
 一発は頭に、二発三発は両掌に、四発は腹に5発は足へと、それはまさにキリストが貼り付けにされた
当時の釘の打たれた位置に酷似している。
 弾丸を受けた中国はそのまま壁に衝突、完全に生命活動をそこで終えることとなった。
 リノリウムに薬莢が落ちる。その音を三人はどのように感じたのだろうか……。

「アリス……だよな」
「うん、……アリスね」
「うわーアリスさんやりすぎだよぉ……」

 驚嘆する三人を尻目に少女は機械的に言う。

「ミッション、コンプリート。ナノマシーン"アリス"限定解除オフ、対象の殲滅を確認。
 私は人間ではありません、ただのき――――」

                                      強制的に終了!!!!

 

 

 

放送終了後。

 

 

「はーいカットォ! お疲れ様でーす」

 そうしてわたしの初めての配役に幕を閉じた。
 人間界でちょっとしたステージをやるといって立たされたわたし、もちろん初めは拒否したがフランや
魔理沙の助力もあって渋々承諾。今に至るというわけだ。

「ふぅ、おつかれさま魔理沙、霊夢。フランも、よくがんばっていたわね」
「うん、アリスさんもお疲れ様。すごくかっこよかったよ」

 そういってわたしの腕を取りギュッと握り締めてくる。
 嬉しい反面、どこか複雑な心境なのはそこで気にせずジュースを飲んでいる馬鹿のせいなんだろうか。

「おーし、かえって花見でもするか」
「また、わたしのうちは花見するところでしかないの?」
「まぁいいじゃない今日くらいは。仕事も終わったことなんだし、ね」
「うん、たまにはねー」
「たまにじゃないから困ってるんだけどね……」

 そういって私達は歩き出す、またもとの戦いに身を置く世界へと。

 

 

 


「―――――あの、わたしは?」

 中国を置いて。


もどります?